ほんとうのピノッキオ どんな映画?見どころを解説

ほんとうのピノッキオの幻想的でダークファンタジーな世界観を感じさせる神秘的な風景や舞台を表すイメージ画像 ファンタジー

「ピノキオ」と聞いて思い浮かべるのは、陽気で色鮮やかなディズニーのアニメーションかもしれません。でも2021年に日本で公開されたイタリア映画『ほんとうのピノッキオ』は、そのイメージを静かにひっくり返してくれる一作です。

この映画は、イタリアの古典児童文学『ピノッキオの冒険』を原作に、「ゴモラ」「ドッグマン」で知られるマッテオ・ガローネ監督が映像化したダークファンタジー。第93回アカデミー賞では衣裳デザイン賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞の2部門にノミネートされた話題作でもあります。

本記事では、『ほんとうのピノッキオ』がどんな映画なのか、ディズニー版との違いや見どころ、出演者情報まで、調査した内容を整理してお伝えします。

『ほんとうのピノッキオ』はどんな映画?ディズニー版と何が違う?

多くの人が「ピノキオ」に抱くイメージは、ディズニーが1940年に制作したアニメーション映画からきていることが多いでしょう。明るく温かいその世界観とは対照的に、『ほんとうのピノッキオ』はカルロ・コッローディが1883年に書いた原作小説『ピノッキオの冒険』に忠実に作られた、ダークで風刺的な物語です。

原作に忠実な「本当の姿」とは

ディズニー版では愛らしく描かれているピノキオですが、原作のピノッキオはもっとやんちゃで衝動的な存在として描かれています。コオロギの忠告を無視するだけでなく、ハンマーを投げつけるほど攻撃的な場面すら原作には含まれていました。映画はこうした原作の「荒削りな人形」の姿を大切にしながら、子供と大人の双方が楽しめるように仕上げているのが特徴と言えるでしょう。

舞台は貧しいイタリアの農村。木工職人のジェペットが丸太から作り上げた人形が命を宿し、波乱に満ちた冒険を繰り広げます。「ただ可愛いだけ」のおとぎ話ではなく、嘘・貧困・信頼といったテーマが随所に織り込まれています。

特殊メイクで作り上げたキャラクターたち

もう一つ大きな違いが、登場キャラクターのビジュアルです。この映画では、ピノッキオをはじめとする多くのキャラクターがCGIではなく補綴メイクによって表現されています。ピノッキオを演じた子役フェデリコ・エラピのメイク完成には、毎回4時間かかったとされています。

その仕上がりは、どこか不気味でもあり美しくもある独特の質感。妖精やキツネ、ネコといったキャラクターたちも、生き物と人工物の境界を曖昧にするような造形で、まるでイタリアの古い絵本の挿絵が動き出したような印象を与えます。このビジュアル面の完成度が、アカデミー賞やダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞での高評価につながったと見ることができます。

「ダークファンタジー」という言葉が示すもの

映画の宣伝コピーには「美しくも残酷なダークファンタジー」という表現が使われていました。「残酷」とはいっても、過激な描写が目的ではありません。原作が持つ教訓的な側面、つまり「自分勝手に振る舞うとどうなるか」「人を疑わないとどうなるか」という問いが、子供向けのおとぎ話の外枠を借りながら語られています。

上映時間は124分で、映倫区分はG。親子で鑑賞できる内容ではありますが、ファンタジーの世界に社会風刺が溶け込んでいるため、大人が見ても考えさせられる場面が少なくありません。「子供向け映画だと思って見ると意外に重い」という印象を持つ方もいるようで、そのギャップもこの映画の持ち味の一つと言えるでしょう。

  • 原作:カルロ・コッローディ『ピノッキオの冒険』(1883年)
  • 製作国・年:イタリア、2019年
  • 日本公開:2021年11月5日
  • 上映時間:124分/映倫区分:G
  • アカデミー賞2部門ノミネート(衣裳デザイン賞・メイクアップ&ヘアスタイリング賞)
  • ※最新の配信状況は各種動画配信サービスの公式サイトでご確認ください

あらすじ:貧しい木工職人と命を宿した人形の冒険

ここまでこの映画がどんな立ち位置の作品かを見てきましたが、実際のストーリーはどのように展開されるのでしょうか。以下では中盤までのあらすじを整理しています。

命を宿した丸太、ピノッキオの誕生

舞台は貧しいイタリアの農村。木工職人のジェペットは食事もままならない困窮した生活を送っていました。そんなある日、村にやってきた人形劇の一座を見て「自分も人形を作りたい」と思い立ちます。さくらんぼ親方から不思議な丸太を譲り受けたジェペットが人形を作り始めると、途中から丸太に心臓の鼓動が聞こえてきます。

完成した人形に「パパ」と声をかけると、人形が「パパ」と返事をしました。こうして「ピノッキオ」が誕生し、ジェペットは息子ができたと喜びます。しかしピノッキオはすぐに外へ走り出し、暖炉に足を突っ込んで焦がすなど、手のかかる存在でした。

学校をサボって始まる波乱の連続

映画『ほんとうのピノッキオ』の幻想的でダークファンタジーな世界観や登場人物の雰囲気を表すイメージ画像

ジェペットは自分の衣類を売って教科書を手に入れ、ピノッキオを学校に通わせようとします。ところがピノッキオは人形劇が気になって学校をサボり、そのまま一座と村の外へ連れ出されてしまいます。

人形劇の親方に捕まったピノッキオでしたが、「ジェペットのところへ帰りたい」と懇願した素直な気持ちに親方が感銘を受け、金貨5枚を渡して解放してくれます。帰り道でキツネとネコに出会ったピノッキオは、「金貨を埋めると倍になる」という嘘の誘いを断れず、まんまと罠にはめられてしまいました。コオロギの忠告も、この場面でも活かされることはありませんでした。

妖精との出会いと「人間になりたい」という願い

罠にはまったピノッキオは心優しき妖精に助けられ、洋館でしばらく過ごすことになります。妖精に嘘をついてしまった際、鼻がぐっと伸びるあの有名な場面もここで登場します。

その後もキツネとネコに繰り返し騙され、途方に暮れながらも妖精のもとで暮らすうち、ピノッキオの中に変化が生まれていきます。「人間になりたい」という気持ちが芽生え始め、妖精からは「いい子になることが前提」と告げられます。勉強に励み、先生から褒められるほどに成長していったピノッキオでしたが、ここから新たな試練が待ち構えていました。

  • ジェペットは貧しい木工職人で、ピノッキオへの愛情が物語の軸になっています
  • おしゃべりコオロギは忠告役として繰り返し登場しますが、ピノッキオはなかなか耳を貸せません
  • キツネとネコは社会の悪意・詐欺を象徴するキャラクターとして描かれています
  • 妖精はピノッキオの成長を見守る存在で、物語後半でも重要な役割を担います

見どころ:映像美・社会風刺・成長の物語が交わる場所

あらすじを整理したところで、今度はこの映画の「何が魅力なのか」という部分を見ていきましょう。映像・テーマ・演出、それぞれの観点から整理します。

圧倒的な映像美とプロダクションデザイン

この映画が最も評価されたポイントの一つが、映像の作り込みです。トスカーナ州、ラツィオ州、プーリア州を舞台にロケ撮影が行われ、古いイタリアの農村の空気感がそのまま映像に宿っています。森の暗がり、石造りの建物、田舎の市場――どのカットも絵画のような構図で、見ているだけで異世界に引き込まれる感覚があります。

ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で美術賞・衣装賞・メイクアップ賞・特殊視覚効果賞を受賞しており、これらの技術的な完成度が批評家から高く評価されました。補綴メイクで作り上げられたキャラクターたちは、CGIとは異なる「手作りの温かみ」と「不気味さ」を同時に持っています。

おとぎ話の皮をかぶった社会風刺

原作『ピノッキオの冒険』は、19世紀のイタリア社会を批判的に描いた作品でもあります。映画もその精神を受け継いでいて、単純な「いい子になろう」という教訓を超えた複層的なテーマが描かれています。

例えばキツネとネコは、足や目に障害を持つ者として登場します。一般的な感覚では「助けてあげよう」と思う存在ですが、実際には悪意ある詐欺師です。このギャップは、外見や境遇だけで人を判断することへの警告とも読み取れます。また、裁判所のシーンで「無罪の者が牢に入る」という逆転した正義が描かれる場面も、当時の社会への皮肉として理解されています。

ピノッキオの成長と、失敗を重ねることの意味

この映画の感情的な核は、ピノッキオの成長にあります。衝動的で言うことを聞かなかったピノッキオが、数々の失敗を経てじわじわと「考える」力を身につけていく過程は、見ていて自然と応援したくなる流れです。

実は、ピノッキオが何度も同じような罠にはまるのには理由があります。人形である彼はそもそも「深く考える」ことが苦手で、善悪の判断よりも目の前の欲や感情で動いてしまいます。後半になるにつれて「騙されない」「働く」「学ぶ」という選択ができるようになっていく姿は、人間への変化がただの「ご褒美」ではなく、積み重ねの結果であることを示しています。

この映画が「大人のダークファンタジー」と呼ばれる理由

子供向けの外枠を持ちながら、内側には以下のような要素が詰まっています。
・貧困と格差(ジェペットの困窮した生活)
・詐欺と悪意(キツネとネコ、「おもちゃの国」の罠)
・歪んだ正義(裁判所の逆転)
・成長とは何か(失敗を重ねることで生まれる判断力)
「なぜあの場面は怖かったのか」「なぜキツネとネコはああいうキャラなのか」と感じた方は、原作の社会風刺の文脈を知ると、理解がさらに深まるかもしれません。
  • 映像美の核:補綴メイク・ロケ撮影・美術の3つが融合した独特の質感
  • テーマの核:教訓・社会風刺・成長の3層が重なっている
  • 感情の核:ジェペットとピノッキオの「親子の絆」が物語全体の温かさを作っている
  • 視聴の参考:映倫区分Gで親子鑑賞可能。ただし暗い場面や不気味なキャラクターが苦手な小さな子供には注意が必要かもしれません
  • ※映倫区分の詳細は映画倫理機構(映倫)公式サイトでご確認いただけます

出演者と登場人物:個性豊かなキャスト陣を整理する

映画『ほんとうのピノッキオ』の幻想的で神秘的な舞台や物語の世界観を表すイメージ画像

見どころのところで触れた特殊メイクの完成度も、このキャスト陣の演技があってこそです。ここでは主要な出演者と登場人物の関係を整理します。

ロベルト・ベニーニ(ジェペット役)

ジェペットを演じるのは、イタリアを代表する俳優・監督のロベルト・ベニーニです。実は彼、2002年に公開されたイタリア版『ピノッキオ』では、自ら監督・脚本・主演としてピノッキオ自身を演じていました。それから約20年、今度は父親役として同じおとぎ話に向き合ったわけです。

本作でのベニーニは、貧しくても愛情深いジェペットを丁寧に演じており、ナストロ・ダルジェント賞の助演男優賞を受賞しています。また、バーリー国際映画祭でも同部門で受賞しています。コミカルな雰囲気を持ちながら、ピノッキオへの深い愛情が滲み出る演技が、物語の温かさを支えています。

フェデリコ・エラピ(ピノッキオ役)

主人公ピノッキオを演じるのは子役のフェデリコ・エラピです。毎回4時間かけて施される特殊メイクをまとい、木の人形の不思議な存在感を体現しました。カプリ・ハリウッド国際映画祭のフューチャー賞、ナストロ・ダルジェント賞のビラーギ特別賞など、若い俳優への注目を集める受賞を複数受けています。

台詞だけでなく表情と体全体で「考えない衝動的な人形」から「考えて行動できる存在」への変化を表現していて、見ていると自然と感情移入してしまいます。メイクが完成するまでの4時間を毎回こなしたという事実だけでも、その撮影への真剣さが伝わってきます。

マリーヌ・ヴァクト(妖精役)ほか個性的なキャラクター

ピノッキオを見守る妖精を演じるのは、フランス女優のマリーヌ・ヴァクト。ターコイズブルーの髪をまとった神秘的な外見で登場し、物語を通じてピノッキオの成長を静かに見守ります。

キツネ役のマッシモ・チェッケリーニとネコ役のロッコ・パパレオは、このコンビが実は本作の脚色にも共同で参加しています。自分が演じるキャラクターの脚本にも携わっているわけで、キツネとネコの細かい仕草や掛け合いに独特の息が合っているのも、そのためかもしれません。おしゃべりコオロギ役のダヴィデ・マロッタや、人形劇一座の親方を演じた名優ジジ・プロイエッティ(2020年に逝去)も含め、イタリア映画界の実力派が集結した作品です。

Q1. ジェペットを演じた俳優はどんな人?
A1. ロベルト・ベニーニは1997年の『ライフ・イズ・ビューティフル』でアカデミー賞主演男優賞・監督賞などを受賞したイタリアを代表する映画人。ピノッキオの原作とは長い縁を持ちます。

Q2. ピノッキオの特殊メイクはCGではないの?
A2. はい、大半がCGIではなく補綴メイクで表現されています。毎回4時間かけて施されたとされており、その仕上がりがアカデミー賞ノミネートにつながりました。

  • ピノッキオ:フェデリコ・エラピ(子役・特殊メイク)
  • ジェペット:ロベルト・ベニーニ(イタリアの名優、2002年版ではピノッキオ役)
  • 妖精:マリーヌ・ヴァクト(フランス女優)
  • キツネ:マッシモ・チェッケリーニ(脚色も担当)
  • ネコ:ロッコ・パパレオ(脚色も担当)
  • 人形劇の親方:ジジ・プロイエッティ
  • ※詳細なクレジット情報は映画公式サイトや映画情報サイトでご確認ください

補足:監督・原作・受賞歴についてまとめて整理する

出演者の情報と合わせて押さえておくと、この映画への理解がさらに深まるのが制作背景と受賞歴です。

マッテオ・ガローネ監督とは

監督のマッテオ・ガローネは、「ゴモラ」(2008年)でカンヌ映画祭グランプリを受賞したイタリアの実力派監督です。犯罪・社会派ドラマを得意とする印象が強い一方で、ファンタジー作品も手がけてきました。「五日物語 3つの王国と3人の女」(2015年)はその代表例です。

「ほんとうのピノッキオ」は彼が6歳のときに最初のストーリーボードを描いたという、念願の企画とされています。長年温め続けたテーマだったからこそ、映像・美術・演出に細部まで強いこだわりが感じられる仕上がりになったのでしょう。社会風刺と映像美を組み合わせるガローネの演出スタイルが、原作の持つ多層的なテーマと非常にうまく噛み合った作品と言えます。

原作『ピノッキオの冒険』との関係

カルロ・コッローディが1883年に発表した原作小説は、もともとイタリアの新聞に連載されていた作品です。ただ可愛らしい人形の話ではなく、嘘をついたり怠けたりする子供への風刺・警告として書かれた側面があります。映画版はこの原作に忠実な姿勢を貫きつつも、過激な表現は一部調整されています。

例えば原作では、コオロギへのいらだちからピノッキオが彼を死なせてしまう場面や、キツネとネコに吊るされて一度死ぬ描写が含まれているとされています。映画版ではこうした部分をマイルドに変更しながら、物語の本質的な教訓は残しているわけです。

主な受賞・ノミネート実績

国際的な評価という観点では、第93回アカデミー賞での衣裳デザイン賞・メイクアップ&ヘアスタイリング賞2部門ノミネートが最も広く知られています。イタリア国内では、ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で15部門ノミネート・5部門受賞(美術・衣装・メイクアップ・特殊視覚効果・ヘアスタイリスト)、ナストロ・ダルジェント賞では9部門ノミネート・6部門受賞と特別賞を獲得しています。

また第74回英国アカデミー賞のメイクアップ&ヘア賞にもノミネートされるなど、英語圏でも一定の評価を受けています。興行面では、2019年のイタリア国内興行収入1500万ユーロを記録し、クリスマスウィークの首位を獲得。ガローネ監督作品の中で最大の興行収入とされています。

  • 監督:マッテオ・ガローネ(「ゴモラ」「ドッグマン」など)
  • 原作:カルロ・コッローディ『ピノッキオの冒険』(1883年)
  • アカデミー賞:第93回で2部門ノミネート
  • ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞:15部門ノミネート・5部門受賞
  • ナストロ・ダルジェント賞:9部門ノミネート・6部門受賞+特別賞
  • イタリア国内興行収入:1500万ユーロ(2019〜2020年の国内第6位)

まとめ

『ほんとうのピノッキオ』は、ディズニー版の可愛らしいイメージとは一線を画した、原作に忠実なダークファンタジーです。映像美・社会風刺・成長物語の3つが交わることで、子供にも大人にも刺さる層の厚い作品になっていると言えます。

まずはこの映画の「ビジュアル」から入ってみてほしいと思います。予告映像だけでも、補綴メイクで作り上げられた独特のキャラクターたちの世界観が伝わるはずです。気になった方は、各種動画配信サービスや映像ソフトでの視聴を検索してみてください。

「知っているつもりだったピノキオが、実は全然違う物語だった」という発見は、意外と新鮮な驚きかもしれません。あなたのピノッキオ観が少しでも広がるきっかけになれば、うれしいです。

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