アトミック・ブロンドの解説|二重・三重スパイの真相とは?

アトミック・ブロンドの解説をイメージした、冷戦下の緊張感と二重・三重スパイの謎を感じさせる都市の雰囲気を表すイメージ画像 アクション

1989年、東西冷戦の終焉が迫るベルリン。この歴史的な瞬間に、ひとりの女性スパイが暗躍していました。シャーリーズ・セロン演じるロレーン・ブロートンは、傷だらけの身体を氷水に沈め、ウォッカで喉を潤しながら、壮絶な任務の全貌を振り返ります。

映画『アトミック・ブロンド』は、スタイリッシュな映像と骨太のアクション、そして複雑に絡み合うスパイたちの駆け引きが魅力の作品です。ただ、MI6・KGB・CIAが入り乱れる二重スパイ・三重スパイの構図は、初見ではやや複雑に感じられるかもしれません。

本記事では、ラストまでのネタバレを含めながら、登場人物たちの本当の正体、パーシヴァルの真の目的、そしてロレーンが仕掛けた壮大な罠まで、作品の要点を丁寧に整理していきます。

アトミック・ブロンドの解説の前提|作品の時代背景と基本設定

本作を理解する上で、まず押さえておきたいのが1989年という時代設定です。この年は東西冷戦が終わりを告げようとしていた歴史の転換点であり、ベルリンの壁崩壊という象徴的な出来事が起こった年でもあります。物語はこの激動の時期を背景に、各国の諜報機関が極秘情報リストをめぐって熾烈な争奪戦を繰り広げる様子を描いています。

デヴィッド・リーチ監督は『ジョン・ウィック』で培ったアクション演出のノウハウを本作にも注ぎ込み、CGに頼らない生身のアクションと、80年代のヒット曲を織り交ぜたスタイリッシュな映像表現を実現しました。主演のシャーリーズ・セロンは本作のために8人ものトレーナーとトレーニングを重ね、歯を折るほどの過酷な準備を経て撮影に臨んだと伝えられています。こうした制作背景が、作品全体に漂う緊迫感と重厚なアクションシーンを支えているわけです。

冷戦末期のベルリンという舞台が持つ意味

1989年のベルリンは、東西の境界線が崩れ始めた緊張と混沌の渦中にありました。東ドイツ政府の力が弱まり、市民による民主化デモが激化する中、各国のスパイたちは次の時代を見据えた情報戦を展開していました。この時期、スパイたちにとってベルリンは最前線であると同時に、自らの立ち位置が揺らぐ不安定な場所でもあったのです。

劇中に登場する極秘リストは、世界中で活動するスパイたちの名前と所属が記されたもので、どの国がこれを手に入れるかによって冷戦後の勢力図が大きく変わる可能性がありました。そのため、MI6(イギリス秘密情報部)、KGB(ソ連国家保安委員会)、CIA(アメリカ中央情報局)、DGSE(フランス対外治安総局)といった各国の諜報機関が、互いに牽制し合いながらリストの奪取を目指したわけです。こうした複雑な国際情勢が、物語全体の緊迫感を生み出しています。

リストをめぐる各国諜報機関の思惑

本作に登場する極秘リストは、単なる名簿以上の意味を持っていました。冷戦期において情報は最大の武器であり、相手国のスパイ網を把握することは、交渉や工作活動において決定的な優位性をもたらします。MI6はリストの流出を防ぎ、西側陣営の優位を保ちたいと考えていました。一方、KGBはこれを手に入れることで東側の巻き返しを図ろうとしていたのです。

ただし、リストを「誰が持っているか」という情報そのものも、同じくらい重要でした。たとえば、リストがKGBの手に渡ったとアメリカやイギリスが認識すれば、西側は警戒を強め、スパイ網を再編する必要に迫られます。逆に、西側がリストを確保したと東側が信じ込めば、東側は情報の優位性を失ったと判断し、戦略を変更せざるを得なくなるわけです。本作のラストでは、こうした「情報を持っている」という認識をコントロールすることが、最も高度なスパイ工作であることが明かされます。

主要登場人物の基本的な立ち位置

物語の中心人物はロレーン・ブロートンです。彼女は表向きMI6のエージェントとして、極秘リストの回収と二重スパイ「サッチェル」の正体を探る任務を与えられました。現地ベルリンでは、同じくMI6所属のデヴィッド・パーシヴァルと協力することになっていましたが、パーシヴァルの言動には不審な点が多く、ロレーンは彼を信用しきれないまま任務を進めることになります。

パーシヴァルは長年ベルリンに潜入しており、東西の間を自由に行き来できる立場を利用して独自の情報網を築いていました。彼の目的は何なのか、そして彼こそが「サッチェル」なのかという疑念が、物語全体を貫く謎として提示されます。また、フランスDGSEのデルフィーヌ・ラサールは、新人スパイとしてロレーンに接近し、やがて恋愛関係に発展しますが、彼女もまたパーシヴァルと何らかのつながりを持っていたことが後に明かされます。このように、誰が味方で誰が敵なのか分からない状況が、物語の緊張感を高めているのです。

【各国諜報機関の基本情報】
・MI6(イギリス秘密情報部):約2500名の人員を擁し、国外での情報収集・工作活動を担当
・KGB(ソ連国家保安委員会):国内監視からスパイ活動まで幅広く担当する巨大組織
・CIA(アメリカ中央情報局):大統領直属の機関で、世界中から国家安全保障に関わる情報を収集
・DGSE(フランス対外治安総局):約7000名の人員でフランスの安全保障を担う

Q1. なぜロレーンはパーシヴァルを信用しなかったのですか?
A1. パーシヴァルは彼女の到着を迎えに来なかった上、勝手に彼女の部屋に侵入したり、嘘をついたりと不審な行動が目立ちました。さらに、ロレーンが行動するたびにKGBに先回りされることから、情報が漏れていると感じたためです。

Q2. デルフィーヌはなぜロレーンに接近したのですか?
A2. 表向きはDGSEの新人スパイとして情報収集のためでしたが、実際にはパーシヴァルの指示でロレーンを監視していました。ただし、二人の間には本物の感情も芽生えていたと見ることもできます。

  • 1989年のベルリンは東西冷戦終結の象徴的な舞台であり、各国スパイが最後の情報戦を繰り広げていた
  • 極秘リストは世界中のスパイの名前と所属が記されており、冷戦後の勢力図を左右する重要な情報だった
  • ロレーンはMI6のエージェントとして派遣されたが、現地のパーシヴァルとの不信感が物語の緊張を生んでいる
  • 詳細な作品情報や公開年、興行成績などは英国映画協会(BFI)や映画倫理機構(映倫)の公式ページで確認できます

アトミック・ブロンドのあらすじ解説|ベルリン壁崩壊までの怒涛の展開

ここからは物語の流れを、ネタバレを含めて丁寧に追っていきます。映画は「現在」のロレーンがMI6本部で任務報告を行う場面から始まり、彼女の回想という形で「十日前」のベルリンでの出来事が語られる構成になっています。この入れ子構造によって、観客は最初から「何か裏がある」という予感を抱きながら物語を追うことになるわけです。

物語の発端は、MI6のエージェント・ガスコインがKGBの暗殺者バクティンに殺害され、極秘リストが奪われたことでした。リストにはリストの中身を全て暗記している東ドイツ国家保安省の職員スパイグラスという人物の存在も記されており、彼を西側に亡命させることが急務となります。こうして、ロレーンは二つの任務を背負ってベルリンに向かうことになったのです。一つはリストの回収、もう一つはMI6内部に潜む二重スパイ「サッチェル」の正体を暴くことでした。

ベルリン到着からパーシヴァルとの不穏な協力関係

西ベルリンに到着したロレーンは、空港でパーシヴァルと合流する予定でしたが、彼は現れませんでした。一人でホテルに向かう途中、いきなりKGBの襲撃を受けます。偽名で入国したはずなのに、すでに正体がバレていたわけです。この時点で、情報が漏れていることは明らかでした。命からがら逃げ延びたロレーンの前に、ようやくパーシヴァルが姿を現します。

パーシヴァルは長年ベルリンに潜入しており、東西を自由に行き来できる特権を持っていました。彼は「時計屋」と呼ばれる協力者のネットワークを持ち、現地の情報に精通していましたが、ロレーンに対しては最初から協力的とは言えない態度を取ります。ロレーンの部屋に盗聴器を仕掛けたり、わざと危険な場所に誘導したりと、味方なのか敵なのか判然としない行動が続きました。こうした不信感が積み重なり、ロレーンは独自に情報を集め始めます。

デルフィーヌとの出会いと恋愛関係の発展

『アトミック・ブロンド』の複雑に絡み合うスパイ同士の駆け引きや緊迫した展開を表すイメージ画像

ロレーンが単独で情報収集を進める中、フランスDGSEの新人スパイ、デルフィーヌ・ラサールが接近してきます。彼女は表向きは好奇心から始めたスパイ活動だと語りましたが、実際にはロレーンを尾行し、監視していました。ロレーンはそれを見抜いた上で、あえて彼女を泳がせることにします。やがて二人の間には、スパイという立場を超えた感情が芽生えていきました。

本作では、ロレーンとデルフィーヌの同性愛関係が丁寧に描かれています。監督のデヴィッド・リーチは「これは観客を挑発するためのシーンではなく、スパイであれば情報を得るために何でもするという側面を表現した」と語っていますが、同時に二人の間には本物の感情もあったように描かれています。デルフィーヌは後にパーシヴァルに殺されることになりますが、その死がロレーンに与えた影響は大きく、物語のクライマックスに向けた重要な転換点となりました。

スパイグラス亡命作戦とパーシヴァルの裏切り

リストの所在が不明なまま時間が経過する中、MI6はリストの中身を全て暗記しているスパイグラスを西側に亡命させる作戦を決行することになります。パーシヴァルは「ベルリンの壁反対のデモに紛れてスパイグラスを西へ逃がす」という作戦を提案し、ロレーンもこれに協力することになりました。しかし、この作戦もまた情報が漏れていたのです。

デモ当日、スパイグラスは予定通り西側への脱出を試みましたが、すぐにKGBのスナイパーに狙われます。ロレーンの機転で難を逃れたものの、今度は謎の銃弾がスパイグラスを襲いました。発砲したのは、なんとパーシヴァルだったのです。ロレーンはスパイグラスを抱えて建物内に逃げ込み、追ってきた複数のKGBと壮絶な戦闘を繰り広げます。この約7分間のアクションシーンは、ほぼワンカットに見えるように撮影された本作最大の見どころです。傷だらけになりながらも敵を倒したロレーンは、パトカーを奪って逃走しますが、最終的に車ごと川に落とされ、スパイグラスは溺死してしまいました。

【7分間ワンカット風アクションの舞台裏】
この壮絶な戦闘シーンは、実際には40カットに分けて撮影されたものを、ワンカットに見えるようにつなぎ合わせています。シャーリーズ・セロンは8人のトレーナーと共にトレーニングを重ね、キアヌ・リーブスとスパーリングも行いました。撮影中には歯を折るほどの過酷な状況でしたが、痛み止めを飲んで撮影を続けたと報じられています。

具体例:パーシヴァルの不審な行動
パーシヴァルは作中で何度も不可解な行動を取ります。たとえば、KGBのバクティンからリストを奪ったにもかかわらず、MI6に報告しませんでした。また、ロレーンの不法侵入を警察に通報したり、東ベルリンのゴロツキから独自に情報を買い取ったりと、まるで自分の利益だけを追求しているかのような振る舞いが目立ちます。彼は「ベルリンを愛している」と最期に叫びますが、その真意は冷戦が続くことで自分の居場所が保たれると考えていたからなのかもしれません。

  • ロレーンはベルリン到着直後からKGBに狙われ、情報が漏れていることを察知した
  • パーシヴァルは協力者のはずだが、不審な行動が多くロレーンは彼を信用できなかった
  • デルフィーヌとの恋愛関係は本物だったが、彼女もパーシヴァルに利用されていた
  • スパイグラス亡命作戦はパーシヴァルの裏切りで失敗に終わり、壮絶な戦闘シーンが展開された
  • 各シーンの詳細な時系列や裏設定は、国立映画アーカイブ(NFAJ)の公式ページで映画史的な文脈と共に確認できます

アトミック・ブロンドの見どころ解説|アクションと音楽が織りなすスタイル

ここからネタバレを含みます。

本作の魅力は、単なるスパイ映画の枠を超えた独特のスタイルにあります。デヴィッド・リーチ監督は『ジョン・ウィック』で培ったアクション演出を本作にも持ち込みつつ、80年代のヒット曲を効果的に使うことで、冷戦という重いテーマに軽快さとポップさを加えました。また、主演のシャーリーズ・セロンが製作総指揮も兼ねていたことから、女性スパイを単なるセクシーアイコンではなく、強靭な肉体と精神を持つ戦士として描くことにこだわったと伝えられています。

映像面では、作り物らしさを隠さない演出が特徴的です。冒頭から白・黒・青を基調とした色彩設計、わざとのっぺりとした照明、不自然に逆巻く粉雪など、明らかに「舞台装置」であることを意識させる映像が続きます。これは「実話ではない、徹底したフィクションである」というメッセージを観客に伝えるための演出と考えられます。その一方で、ロレーンの傷だらけの肉体や、痛々しいほど生々しいアクションシーンは極めてリアルに描かれており、この対比が独特の緊張感を生み出しているのです。

CGに頼らない生身のアクションシーンの迫力

本作のアクションは、近年のハリウッド映画では珍しいほどアナログ主体です。CGやワイヤーアクションに頼らず、実際に俳優が殴り合い、投げ飛ばされ、階段を転げ落ちる様子が撮影されました。特に印象的なのが、武器らしい武器をほとんど使わない点です。ロレーンは放水ホース、鉄鍋、バケツ、冷蔵庫、はしご、玄関のカギなど、その場にあるものを即座に武器として活用します。

また、戦闘の描写が非常に痛々しいのも特徴です。一般的なアクション映画では、主人公がスマートに敵を倒していきますが、本作のロレーンは戦うたびに傷を負い、疲労が蓄積していきます。大柄な男性相手には簡単には勝てず、なんとか隙をついて倒していく様子がリアルに描かれました。こうした「格闘の現実」を重視した演出が、スパイという職業の過酷さを際立たせています。ジェームズ・マカヴォイ演じるパーシヴァルは撮影前に手を骨折していましたが、ギプスをそのまま劇中の演出に取り入れることで、よりリアリティが増したとも言えるでしょう。

80年代音楽が彩るスタイリッシュな世界観

本作のサウンドトラックは、1980年代のヒット曲とそのカバーで構成されています。冒頭でKGBのバクティンがガスコインを殺害する場面ではニュー・オーダーの「ブルー・マンデー」が流れ、ロレーンがベルリンに向かう場面ではピーター・シリングの「Major Tom(vollig losgelost)」が使われるなど、シーンごとに印象的な楽曲が配置されました。音楽プロデューサーのタイラー・ベイツは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』でも同様の手法を用いており、選曲のセンスは折り紙付きです。

リーチ監督は「冷戦期のスパイ映画は既に数多く存在する。どうすれば新鮮さを出せるのか」という課題に直面し、音楽で差別化を図ることにしたと語っています。80年代の楽曲を使うことで、重いテーマでありながら軽快なテンポで物語を進めることができました。カバー曲を混ぜたのは、当時の雰囲気を維持しつつ現代的な感覚を加えるためだったとのことです。当初予定していた楽曲の4分の3の使用許可を取り付けることができ、結果として作品全体に一貫したムードが生まれました。

女性スパイの新しい描き方と同性愛の表現

アトミック・ブロンドの解説で描かれる二重・三重スパイが潜む緊張感ある世界観を表すイメージ画像

本作のロレーン・ブロートンは、従来のスパイ映画に登場する女性像とは一線を画しています。彼女は男性の命令に従う受動的な存在ではなく、自らの判断で行動し、必要とあらば拳で戦う主体的な「強い女性」として描かれました。服装や化粧は美しく洗練されていますが、それは女性であることを放棄したわけではなく、女性としての魅力と戦士としての強さを両立させた存在なのです。

デルフィーヌとの同性愛関係も、単なるセンセーショナルな演出ではなく、現代的な女性像の一部として自然に描かれています。脚本家のカート・ジョンスタッドがこの要素を提案した際、セロンは「他のスパイ映画との差別化になる」として直ちに採用したと伝えられています。リーチ監督は「これは観客を挑発するためではなく、スパイであれば情報を得るために何でもするという側面を表現した」と説明していますが、同時に二人の間には本物の感情もあったように見えます。デルフィーヌの死後、ロレーンが涙を流す場面は、彼女が完全に機械的な人間ではなかったことを示唆しているのかもしれません。

Q1. アクションシーンのトレーニングはどれほど過酷だったのですか?
A1. シャーリーズ・セロンは8人のトレーナーと共に空手、柔道、白兵戦などの訓練を重ね、トレーニング中に歯を3本折るほどでした。本番では痛み止めを飲んで撮影を続けたと報じられています。偶然にもキアヌ・リーブスのトレーニング期間と重なり、二人はスパーリング相手としても切磋琢磨したそうです。

Q2. なぜ本作は作り物らしい映像表現を採用したのですか?
A2. 冒頭で「これはそういう話(実話)じゃない」と宣言しているように、本作は徹底してフィクションであることを強調しています。白・黒・青の色彩設計や不自然な照明は、スパイ映画という虚構の世界を意識的に見せるための演出だと考えられます。その一方で、ロレーンの肉体やアクションは極めてリアルに描かれ、この対比が独特の緊張感を生んでいます。

  • 本作のアクションはCGに頼らず、実際に俳優が殴り合い転げ落ちる生身の迫力が魅力
  • 80年代のヒット曲を効果的に使うことで、重いテーマに軽快さとスタイリッシュさが加わった
  • ロレーンは従来の女性スパイ像を超えた、主体的で強い女性戦士として描かれている
  • デルフィーヌとの同性愛関係は、現代的な女性像の一部として自然に組み込まれた
  • 撮影技法やアクション演出の詳細は、映画倫理機構(映倫)の年齢区分情報と合わせて確認するとより深く理解できます

アトミック・ブロンドの出演者と登場人物の役割

本作には、シャーリーズ・セロンをはじめとする実力派俳優陣が集結しています。それぞれのキャラクターは単なる駒ではなく、冷戦末期という時代背景の中で葛藤し、自らの信念や利益のために行動する人間として描かれました。ここでは主要な登場人物を整理し、彼らが物語の中で果たした役割を確認していきます。

スパイ映画という性質上、登場人物たちの発言や行動には常に裏があり、誰が本当のことを言っているのか最後まで分かりません。それぞれの真の所属や目的が明かされるのは物語の終盤であり、観客は常に疑念を抱きながら物語を追うことになります。こうした構造が、本作の緊張感を支えているのです。

ロレーン・ブロートン(シャーリーズ・セロン)

主人公のロレーン・ブロートンは、表向きMI6のエージェントとして極秘リストの回収と二重スパイ「サッチェル」の正体を探る任務を与えられました。しかし物語の終盤で、彼女こそが「サッチェル」であり、さらにCIAの三重スパイだったことが明かされます。つまり、MI6とKGBの二重スパイを装いながら、実はアメリカのために動いていたわけです。

ロレーンの真の目的は、リストをめぐる混乱を利用して各国を欺き、最終的にCIAがリストを手に入れることでした。彼女はパーシヴァルを「サッチェル」に仕立て上げ、MI6には裏切者を始末したと報告し、KGBには偽のリストを渡して全員を始末するという、極めて高度な作戦を実行したのです。演じたシャーリーズ・セロンは本作の製作総指揮も兼ねており、企画段階から深く関わっていました。彼女は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の成功が本作の製作に役立ったと語っており、女性が主役のアクション映画を作ることへの強い意欲がうかがえます。

デヴィッド・パーシヴァル(ジェームズ・マカヴォイ)

パーシヴァルはMI6ベルリン支部の責任者で、長年の潜入任務で東西ベルリンを知り尽くしていました。彼は「時計屋」と呼ばれる協力者のネットワークを持ち、東西を自由に行き来できる特権を利用して独自の情報網を築いていました。しかし、その行動には不審な点が多く、最終的にロレーンに射殺されることになります。

パーシヴァルの真の目的は、冷戦が続くことで自分の居場所を保つことだったと考えられます。彼は死ぬ間際に「おれはベルリンを愛している!」と叫びましたが、これは分断されたベルリンこそが彼のアイデンティティだったことを示しています。壁が崩壊すれば、彼の特権も影響力も失われてしまうわけです。そのため、リストを自分の手元に置いたまま、少しずつKGBに有利な情報を流して東西のバランスを保とうとしていたのではないでしょうか。演じたジェームズ・マカヴォイは撮影前に手を骨折していましたが、ギプスをそのまま劇中に取り入れることで、キャラクターにリアリティを加えました。

デルフィーヌ・ラサール(ソフィア・ブテラ)とスパイグラス(エディ・マーサン)

デルフィーヌはフランスDGSEの新人スパイで、好奇心から始めた諜報活動だと語っていましたが、実際にはパーシヴァルの指示でロレーンを監視していました。しかし、ロレーンとの間には本物の感情が芽生え、やがて恋愛関係に発展します。パーシヴァルは用済みになったデルフィーヌを殺害しましたが、この死がロレーンの怒りに火をつけ、パーシヴァルを射殺する直接的な動機となりました。演じたソフィア・ブテラは『キングスマン』で義足の殺し屋ガゼルを演じたことでも知られ、本作でも印象的な存在感を示しました。

スパイグラスは東ドイツ国家保安省(シュタージ)の職員で、極秘リストの中身を全て暗記していた人物です。彼は身の危険を感じ、パーシヴァルを通じてロレーンに西側への亡命を依頼しました。しかし、パーシヴァルに銃撃され、さらにKGBの追撃を受けた末、車ごと川に落ちて溺死してしまいます。ロレーンは必死で彼を救おうとしましたが、間に合いませんでした。演じたエディ・マーサンは『ミッション・インポッシブルⅢ』や『シャーロック・ホームズ』などにも出演するイギリスのベテラン俳優です。

【主要キャストの役作りエピソード】
・シャーリーズ・セロン:8人のトレーナーとトレーニングを重ね、歯を3本折るほどの過酷な準備を経て撮影に臨んだ
・ジェームズ・マカヴォイ:撮影前に手を骨折していたが、ギプスをそのまま劇中に取り入れることで役に臨んだ
・ソフィア・ブテラ:『キングスマン』での殺し屋役で培ったアクション技術を本作でも発揮した
  • ロレーンは表向きMI6のエージェントだったが、実はCIAの三重スパイだった
  • パーシヴァルは冷戦が続くことで自分の居場所を保とうとしていた可能性が高い
  • デルフィーヌはパーシヴァルに利用されていたが、ロレーンとの間には本物の感情もあった
  • スパイグラスはリストを暗記していたが、パーシヴァルの裏切りとKGBの追撃で命を落とした
  • 各俳優のプロフィールや過去作品は、国立映画アーカイブ(NFAJ)や英国映画協会(BFI)の公式データベースで確認できます

アトミック・ブロンドの結末とラストシーンの意味

物語の終盤、ロレーンはパーシヴァルを射殺し、リストを回収しました。MI6本部での尋問では、パーシヴァルこそが二重スパイ「サッチェル」であり、全ての元凶は彼を放置していた上司にあると結論づけます。デルフィーヌが撮影した写真と、録音したテープをつぎはぎして作った偽の音声を証拠として提示し、MI6の責任者Cはこの一件を闇に葬ることを決定しました。ロレーンは本当はリストを所持していましたが、「知らない」と嘘をついたのです。

尋問の3日後、ロレーンはパリでKGBの要人ブレモヴィッチと密会し、リストを渡します。しかし、ブレモヴィッチは「用済みの彼女を始末しろ」と部下に指示を出しました。これを予期していたロレーンは、事前に隠していた銃で敵を一掃し、ブレモヴィッチをも撃ち殺します。そして死にゆく彼に対し、「渡したリストは偽物だった」と告白しました。つまり、ロレーンは最初からKGBを欺くつもりだったわけです。

ロレーンの真の正体と三重スパイの構図

最終的にロレーンが向かったのは、CIAの専用機でした。機内にはCIAのカーツフェルドが待っており、二人は「帰りましょう」と言葉を交わします。MI6本部での尋問にカーツフェルドが同席していたのは、実はロレーンがCIA所属の三重スパイだったからなのです。彼女はMI6のエージェントとして派遣され、KGBのスパイを装いながら、実はアメリカのために動いていました。

三重スパイという設定は、初見ではやや複雑に感じられるかもしれません。整理すると、ロレーンは以下のように振る舞いました。まず、MI6にはパーシヴァルが「サッチェル」だったと報告し、リストの行方は不明としました。次に、KGBには自分が二重スパイだと装い、リストを渡すと見せかけて偽物を渡し、全員を始末しました。そして最終的に、本物のリストはCIAの手に渡ったのです。こうすることで、MI6は裏切者を始末できたと安心し、KGBはリストを得られなかったと諦め、CIAだけが本物のリストを手に入れるという結果になりました。

パーシヴァルを「サッチェル」に仕立て上げた理由

ロレーンがパーシヴァルを「サッチェル」に仕立て上げたのには、いくつかの理由があったと考えられます。第一に、パーシヴァルは実際にKGBと内通しており、リストを奪ったまま報告せず、スパイグラスを銃撃するなど、明らかに裏切り行為を働いていました。そのため、彼を「サッチェル」として処理することは、ある意味では事実に基づいた説明だったわけです。

第二に、パーシヴァルを犯人に仕立てることで、ロレーン自身の疑いを晴らすことができました。もしパーシヴァルが生きていれば、ロレーンの行動に疑問を持ち、MI6に報告していた可能性があります。実際、パーシヴァルはKGBに対して「ロレーンが裏切者だ」と報告していたのです。彼を始末することで、ロレーンは自分の正体を隠し通すことができました。第三に、デルフィーヌを殺したことへの復讐という個人的な動機もあったかもしれません。ロレーンはデルフィーヌの死体を見て涙を流しており、彼女に対して本物の感情を抱いていたことがうかがえます。

ラストシーンの赤いドレスが象徴するもの

ラストシーン近くで、ロレーンは鮮やかな赤いドレスを身にまとってKGBの要人と密会します。この「赤」という色には、複数の意味が込められていると考えられます。一つは、共産主義・コミュニズムを象徴する色としての「赤」です。ロレーンがKGBのスパイを装う場面で赤を着ることで、彼女が東側陣営に寝返ったかのように見せかける効果がありました。

もう一つは、女性性やフェミニズムを象徴する色としての「赤」です。物語の前半で、ロレーンは「英国女王のパーティーにどんな服を着ていけばいい?」と尋ねるセリフがありました。これは、彼女が確固たるアイデンティティを持っていなかったことを象徴していました。スパイという職業は、常に他人を装い、自分を偽ることを要求されます。そのため、彼女は「自分が何者か」を見失っていたのです。しかし、一連の戦いを経て、彼女は自分の中に何か確固たるものを見出したのではないでしょうか。赤いドレスを着て、CIAの専用機に乗り込む彼女は、もう迷いのない表情をしています。ラストシーンは、彼女が「女性」として「ローレン・ブロートン」として、普通の生活に戻る覚悟を決めたことを示唆しているのかもしれません。

具体例:リストをめぐる情報戦の高度さ
冷戦期において、「情報を持っているという認識をコントロールすること」は、情報そのものを持つことと同じくらい重要でした。たとえば、ソ連がリストを得たとアメリカが信じれば、アメリカは警戒を強めてスパイ網を再編します。逆に、アメリカがリストを確保したとソ連が信じれば、ソ連は情報の優位性を失ったと判断し、戦略を変更せざるを得なくなります。ロレーンの作戦は、まさにこの「認識のコントロール」を利用したものでした。MI6には「リストは不明」と報告し、KGBには「偽のリスト」を渡して安心させ、実際にはCIAだけが本物を手に入れるという三段構えの欺瞞だったのです。

  • ロレーンは表向きMI6のエージェントだったが、実はCIAの三重スパイだった
  • パーシヴァルを「サッチェル」に仕立てることで、自分の疑いを晴らし、MI6を納得させた
  • KGBには偽のリストを渡して始末し、本物のリストはCIAの手に渡った
  • ラストシーンの赤いドレスは、女性性の象徴であり、彼女が自分のアイデンティティを取り戻したことを示唆している
  • 三重スパイの構図や冷戦期の情報戦については、英国映画協会(BFI)の映画史アーカイブで詳しく確認できます

まとめ

映画『アトミック・ブロンド』は、冷戦末期のベルリンを舞台に、二重・三重スパイが入り乱れる壮絶な情報戦を描いた作品です。シャーリーズ・セロン演じるロレーン・ブロートンは、最終的にCIAの三重スパイだったことが明かされ、MI6とKGBの双方を欺いてリストを手に入れるという、極めて高度な作戦を成功させました。

本作を観るときは、まずロレーンの立ち位置を意識しながら、彼女がどの場面で誰を欺いているのかを追ってみてください。パーシヴァルの不審な行動、デルフィーヌとの関係、スパイグラス亡命作戦の失敗など、すべてがラストの種明かしへとつながる伏線になっています。

そして何より、7分間の壮絶なアクションシーンと、80年代の音楽が織りなすスタイリッシュな映像をぜひ劇場やブルーレイの大画面で体感してみてください。シャーリーズ・セロンが歯を折るほどのトレーニングを重ねて作り上げた肉体と、デヴィッド・リーチ監督のこだわり抜いた演出が、スパイ映画の新たな地平を切り開いた傑作です。

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